2011年06月04日

ラノベが出版されるまでの流れ

 GJ部の6巻の作業。
 昨日だか一昨日だかに、すべて完了しました。
 6/17に無事、発売されます。

 意外とギリギリまでやってるものです。
 あ。意外でもないか。
 一般的な認識としては、発売日の前日あたりまで作業をしてる、というものなんでしょうね。たぶんきっと。

 この業界で20年飯を食ってる作家から見た、ラノベが刊行されるまでの流れなどをしてみます。

 まず著者が原稿を書きあげないと、なんも始まりません。この原稿が完成することを「脱稿」などと呼びます。
 最初に上がって編集者に渡した原稿は「初稿」と呼ばれます。二回目だと「2稿です」。
 わざわざ番号を付けるのは、何回も渡したり戻したりされるからです。
 人によっては「初稿」が脱稿しても、そこで終わりではなくて、編集者と協議の上で改稿作業をすることがあります。
 新人さんは基本的に直し前提です。大幅書き直しとか、丸ごと書き直しとかもザラです。デビュー作だと7回書き直したなんて話も風の噂に聞こえてきます。
 ちなみに新木の場合には、いつも書きあげたら即入稿です。直しもほとんどありません。二稿を出さないことさえあります。

 この入稿日は、早い出版社では、発売日の3ヶ月前です。
 タイトなスケジュールで自転車操業的に回しているところでも、2ヶ月前には入れないと、かなり厳しい状況となります。
 なぜなら、手の早いイラストレーターでも、ラノベ一冊分のカラーと白黒挿絵を描くのに1ヶ月はかかるからです。

 よって2ヶ月まえに原稿が完成していないと、安全をとって刊行を遅らせる――落としておくか、落ちてしまう危険を推してでも無理に進めるか、営業的判断が行われることになります。
 期待されていないシリーズの続刊だと、あっさり延期されます。売れっ子の最新作なんかは、どんなに無理なスケジュールでも、ギリギリまで攻めることがあります。発売7日まえに原稿上がって本が出たとか、そんな武勇伝も聞こえてきたりします。
 作家個人のプロ度や信頼度にもよります。こいつは上げるといったら絶対上げてくるやつだから、と信頼があればチャレンジもしてもらえます。
 しかし最初に言ったように、そんな特殊ケースを基準に考えてはいけません。そういうのは限界と不可能とに挑んだ我ら人類の偉大なる記録であって、普通は“最低でも2ヶ月前”です。

 出版社としても、なるべく予定をずらしたくないという事情があるわけです。
 「告知」というのがありまして。
 最近ではおもに、出版社のHP上の刊行予定のラインナップに載るかどうかということになりますが、それがちょうどこの2ヶ月前なわけですね。
 いったん告知に載せてから落としてしまうと、これは出版社の信頼に関わります。

 このように執筆と出版とはだいぶ間が開いています。
 夏の話を書いているのが、春だったりするわけです。
 ていうか、いま書いているGJ部は秋の話(7巻)ですけど。まだ夏も来ていないのに、なんかピンと来ません。まあいつものことではありますが。

 最低2ヶ月前に、原稿が耳を揃えて入稿されると、そこからはおもに編集さんの仕事となります。

 まず大事なのはイラスト発注。
 イラストレーターにイラストを発注します。どんな場面にするかとか、どんな絵にするかとかは、基本的に編集さんがすべて決定します。著者はまったく関与できないのが普通です。せいぜい「この場面だけは絵にして欲しいです」と希望を伝える程度。
 あとキャラクターデザインに関しても、これはレーベルというか編集さん個々の流儀だと思いますが、作者が希望を出したり意見を求められたりする場合と、作者がまったく意見を言えない場合とがあります。
 後者のほう。作者が意見を言えないようにしていたほうが、往々にして仕事がうまく回ったりしますので、不思議です。きっと作者は自分の大事な作品のことなので冷静に客観的に見れなくなっているのでしょう。だけど作者をまったく蚊帳の外に置いちゃうとスネちゃってモチベーションとヤル気に関わってくるので、ラフデザインくらいは見せてもらえます。わーい。作者って面倒です。
 いずれのケースにおいても、決定権は編集さんにあります。
 イラストレーターさんにギャラを払っているのは、作者ではなく出版社なのですから、これは当然です。

 イラストの発注やクオリティ管理は、編集さんの仕事とはいえ、細々としたものは作者の側にも発生します。新キャラが登場したり、本文中で背格好や服装などを細かく記述していない場合には、設定資料などを要求されることもあります。

 そうして「入稿」から1ヶ月ほどをかけて、イラストレーターさんがカラーや白黒のイラストを描きあげているあいだ、原稿のほうの作業も同時並行して進んでゆきます。
 入稿原稿を専門のプロの校閲さんがチェックする「校正作業」やら、著者がチェックする「著者校」などがあります。編集者も含めて、複数人の人間が、何度も何度も何度も読んで、わかりにくい部分とか、言葉の誤用とか、単純な誤字脱字とかをチェックします。
 それでも出版された本には、何カ所か誤字脱字が残ったりするんですよね。不思議です。

 このへんでやりとりされている「原稿」は、なんと、ローテクなことに紙媒体です。
 作家はパソコンで書いています。入稿時に渡すのはテキストデータです。それをいちど印刷所に入れて、向こうで版を組んで印刷してもらいます。印刷といっても、インクと印刷機で刷る必要はなくて、ページプリンタでコピー用紙に打ち出したものですが。
 見慣れた文庫のフォーマットで、見開き2ページが入っている状態で送られてきます。
 それに赤のボールペンで訂正指示を書きこみ、印刷所にいったん戻して、印刷所のオペレーターさんが向こうにあるデータを、赤文字を見ながら修正します。それを何回も繰り返します。
 作者が行う「赤入れ」=「著者校」は通常2回程度ですが、編集さんは、さらにもう何回かやっています。

 結局、印刷所のパソコンのデータを直すだけのことなのだから、そっちを直接いじらせてくれれば、わざわざ手書きで紙にボールペンで赤入れをしなくても済むし、激しく省力化できると思うんですけど……。
 まあ昔からのやりかたが、いまでも一般的に通用しています。
 きっと紙媒体が死滅するまで、このまんまでしょう。

 ちなみに新興レーベルでは、このへん進歩したところもあって、InDesign(Adobe社の電子製版ソフト。業界標準)のデータが直接やりとりされている場所もあるそうな。

 本文とイラストが揃い、それをさらにデザイン処理して、本となったときに使われるデータに加工し終えるまでが編集部の仕事です。
 このあたりからデザイナーの仕事も重要になってきます。
 作品のタイトルロゴなんかはデザイナーの作品ですし。イラストや文字を配置して、目を引くものにするのも、デザイナーの領分です。(実際には編集者の意向を受けてデザイナーが仕上げます)

 カラーの部分は、データ段階と、実際のインクを使った印刷物との色の違いがよく起きますので、印刷所と協力しつつ、何度も打ち出したりチェックしたりと、色味の調整を行います。
 で。すべてが完了して。「もうOKです。このまま印刷製本しちゃってください」となるのが、だいたい発売日の1ヶ月前――には行いたいんでしょうけど、最悪、二週間前くらいまでもつれこみますねえ。

 もちろん、前述したように、人類の記録に挑戦するのであれば、もっとギリギリでもなんとかなりますが、通常納入よりも遅れると「特急料金」が発生してコストが掛かってしまいます。
 最近の印刷機は全自動らしいです。印刷から製本、表紙カバーから、帯まで、全部やってくれるそうな。
 数万冊程度の本など、ものの数時間もあれば完成してしまいます。
 でも印刷所は他にも刷るものがたくさんあり、スケジュールに従って動いているので、一冊の本のためだけに無理も言えません。

 印刷所の作業に関しては、新木はあまり詳しくないので、実際は違っているかもしれません。
posted by 新木伸 at 01:03| Comment(7) | コンテンツ
この記事へのコメント
Огромное спасибо за инфу. Автору респект и уважуха.
Posted by как самому поменять акпп at 2013年12月14日 04:16
Excellent read, I just passed this onto a friend who was doing a little research on that. And he just bought me lunch as I found it for him smile So let me rephrase that: Thank you for lunch! "There are places and moments in which one is so completely alone that one sees the world entire." by Jules Renard.
スノーボード ビンディング http://www.cerebel.biz/ビンディング-japan-28.html
Posted by スノーボード ビンディング at 2013年12月16日 11:28
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