2016年02月08日

本を作るのに必要な金額

 TWITTERでちらっとやっていた話題。
 その詳しい版。

 本を作るには「固定費」の部分が多く、もともと3万部以上でないと赤字の商売だったものが、最近の経費削減努力によって、商売の成り立つボーダーラインは1万部近辺まで下りてはきたが、やはり1万部で、消化率80%くらいは出してないと厳しいという話でした。



 本を制作するには、「固定費」というものが掛かります。
 固定費とは、3万部刷っても1万部刷っても、極端なことをいえばたった「1部」であっても、必要な金額のことです。

※注:
 ここにある数字は、新木が推定で入れているものです。実情を直接知って出しているものもあれば、推測で入れてあるものもあります。それほど誤差のない自信はありますが、あまり鵜呑みにしないようにお願いします。また業界の方で、実際の正しい数字を知っている方がいましたら教えていただけると助かります。
 印税率は「10%」で計算しています。ええ。そりゃもう。8%のところも、7%のところも、あまつさえ5%のところの実在まで存じておりますが、新木は業界標準を「10%」と信じていたい派なので、それで計算しています。


 まず、固定費の計算です。

○基本固定費。1冊の本を作るのに必要な固定費の内訳
・著者印税。0万。
・イラストレーター報酬30万。
・デザイン料。30万。
・編集者給料。事務費等。40万。(編集者が業務委託の契約社員で、手取り月給25万の場合。大手一流出版社正社員の場合はもっと膨大で100万+)
・印刷費。68万。
・原価合計168万。

 この「168万」が固定費です。
 1冊だけの印刷だろうが、何十万部だろうが、かならず一定でかかる額です。
 さらにここに、刷り部数による「紙代」と「著者印税」がかかってゆきます。
 1、3、10万部の場合について、計算してみます。

 ちなみに1万、3万、10万の部数というのは、それぞれ「ぜんぜん売れてない」「すごく売れてる。アニメ化候補?」「誰もが知ってる」くらいに相当しています。


○1万部を作るのに必要な金額
・著者印税。60万。
・イラストレーター報酬30万。
・デザイン料。30万。
・編集者給料。事務費等。40万。
・印刷費68万+紙代66万=134万
・原価合計294万。

○3万部を作るのに必要な金額
・著者印税。180万。
・イラストレーター報酬30万。
・デザイン料。30万。
・編集者給料。事務費等。40万。
・印刷費68+紙代198=264万円。
・原価合計546万円。

○10万部を作るのに必要な金額
・著者印税。600万。
・イラストレーター報酬30万。
・デザイン料。30万。
・編集者給料。事務費等。40万。
・印刷費68+紙代660=728万。
・原価合計。1428万円。

 つぎに、出版社に入ってくるお金の話です。
 単価は600円。
 流通への卸価格を60%として、各消化率ごとに計算してみます。

○初刷り1万、消化率50%、文庫600円。出版社に入るお金=180万円
○初刷り1万、消化率80%、文庫600円。出版社に入るお金=288万円
○初刷り3万、消化率50%、文庫600円。出版社に入るお金=540万円
○初刷り3万、消化率80%、文庫600円。出版社に入るお金=864万円
○初刷り10万、消化率50%、文庫600円。出版社に入るお金=1800万円
○初刷り10万、消化率80%、文庫600円。出版社に入るお金=2880万円

 これは出版社の「売り上げ」です。
 ここから「原価」を引くと、「利益」が求められます。
 原価は、さきほど計算しました。以下のようになっています。

・1万部原価。294万。
・3万部原価。546万円。
・10万部原価。1428万円。

 1万部の本では消化率80%でも、ギリ赤字です。

 消化率50%だったら、モロ赤字。100万円ぐらいの赤字が出版社に発生しちゃっています。

 ちなみに実売数5000って実売数は、これ、いまの御時世ですと「わりと売れたね」と言われるほうでして……。2巻まではなんとか、出るか、出ないか……そのボーダーラインに相当します。
 その月のラインナップの新シリーズ数本のなかで、1番の成績だったりすることも……。(他がすべて爆死だったりすることも多いので)

 3万部級の本になると、消化率50%でもギリ黒字。80%なら普通に黒字です。1万部の爆死作品(超赤字)を1シリーズ養うことができます。
 10万部の本で消化率80%なら超大黒字。1万部の爆死作品を5シリーズ養えます。

 ここで「養う」という言葉を使いましたが……。
 実際、単体で黒字化できている作品は、けっこう、少ないです。
 特に最近のラノベ界では、爆死率80%を超えています。それでも出版業が商売として成り立っているのは、超ヒット作品があるからです。
 超ヒット作品によって稼いだ「余剰体力」で、出版社は、その他の作品を出しているわけですね。

 新木も、「ヒット作」と呼べるシリーズの生涯打率は2割5分くらいで、残り4分の3はギリ黒字か、モロ赤字だったりします。
 自分が他の作家さんのヒット作に支えられることもあれば、逆にヒット作を出して支えることもあるわけで……。持ちつ持たれつ、素晴らしいことだと思います。



 最後にオマケ。印刷固定費の内訳です。

○印刷費の内訳
・組み版。1600×256=41
・出力。500×256=13
・印刷。8500×16=14
・印刷固定費。68万。

○紙代について
・1万冊=66万。
・3万冊=198万円。

※注:
 正確には、インク代や、1色4色の違いやら、帯やカバーのコストや、製本コストなどの内訳がありますが、ここでは大雑把に「紙代」としてまとめてあります。
posted by 新木伸 at 19:25| Comment(4) | コンテンツ
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